2021年10月30日土曜日

ブリブリブーリー

 トマトが海に行きたいというから、そろそろ今年の海も最後かなと思いながら時間をとった。折り悪く小笠原あたりにある台風の影響で東風が吹き、予定していた海は無理そうだったので、急遽行き先を変えた。西風が吹き始めるいつものこの時期には使わない海岸だ。風下の沿岸には小魚の大群が集まり、それを追って回遊魚が入り込んでいた。


ブリの群れに囲まれた。水中カメラは持ってきたけど、こんな時に限って陸においてきてしまった。


一撃必殺。


お約束のにいなは味を裏切らない



一匹の魚で14人が満腹というのはさすがにすごい。



2021年10月25日月曜日

夜の虹

 人間はさまざまな光を放っている。ひとつの色ではなく、まるで虹のようにあいまいで連続性のある光だ。フィールドで人に出会う事を仕事にしている人類学者にとって、相手と対面するということは、社会を知るための何よりも大切な手がかりである。社会や共同体は、決してあらかじめ与えられた制度ではなく、そうして出会ったそれぞれの人間の関わりの先にあると人類学者は考えている。だから野に出る。


映像や文字の中で表現されている人は、どこか切り取られ、誇張され、美化されたりすり替えられたりしている。これはもちろん表現する人によるバイアスもあるが、カメラやマイクを向けられた本人がそう演じることもある。

でも実際に出会った人間は、およそそんなものではない。怒ったり、悲しんだり、焦ったり、不安をのぞかせたり。言葉することができないなにげない表情や仕草から、わたしたちはその人のことを生々しく理解していく。

おいしいものを食べてお酒を飲み交わしながら、前回の講演と今回の講演あわせてなにか本を作りたいなと思った、できれば小さな映像作品もつくりたい。

3日間という限られた時間の中で、野研の学生たちも講演者たちも、お互いにいろいろな話をしたし、ふだんは見せない姿をみせあった。それをぜひたくさんの人にも伝えたいと思う。

喜んだり笑ったり歌ったり、映画やニュースや本の中ではなかなか見えてこないそんな今のリアルを記録に残したい。そこから、社会や制度ははじめからそこにあるのではなく、それぞれの人間が動かしているということを多くの人に知ってほしいと思う。


2021年10月4日月曜日

紫川でスタードームを立てました。

 


1

暑さもすっかりおとなしくなった秋のはじめ、クマが水を飲んでいました。背後から、かわいらしい声が聞こえてきます。

「おかあちゃーん、まってよう。まだあそびたいよう」

「もう日も暮れるから、いま水飲んどかないと知らないよ」

「よるでものめるじゃないか」

「夜はだめ。ニンゲンが私たちを殺しにやってくるからね。クジラさん、イルカさん、生きとるかい」

目の前に二つのふくらみがむっくりとあらわれ、弾けると、イルカとクジラが顔を出しました。イルカが高い声で答えます。

「あいよ。まあ、昔ほどビクビクせんでも良いんでねーの?俺らを食うモノ好きはそうたくさんおらんて」

「お前たちはそうかもしれんが、俺たちはまだ追われる身だかんな。かんけーねーみたいなツラせんでほしいわ。」

イルカを睨みながらヒツジが川岸にやってきました。そばで会話を聞いていたヤギとオウシが後に続きます。

「あいつらどこまでも追いかけてくるからな。ドラゴンのジジイがひと暴れしてくれりゃいいけど、あのご隠居、まったく顔を出さんもんだから、ニンゲンはジジイの存在すら忘れちまってるよ」

「こないだも、昔のニンゲンたちがジジイへの謝罪の気持ちで建てた小屋をひ孫あたりのニンゲンが壊してたよ。何がしたいんだろね。」

「ああ、あそこなら今はデッカい鉄の棒が突き刺さってるよ。俺が首をまっすぐ伸ばしてもテッペンまで届かなかった」

キリンが草をハミハミしながら答えます。

「おれはお前たちがそこまでニンゲンを嫌いになる理由がわからんのだが。」

こう切り出すのはツルです。ずっと黙っていたワシも呟きます。

「おれもわからねー。けっこう大切にしてくれるニンゲンもいるし。ホウオウのおじいさんなんて、ニンゲンたちからは敬われてるよ」

ヤギがムッとして答えます。

「ノーミソ小さいやつは楽しかったことしか覚えとらんからな。だいたい、ニンゲンはやたらお前らを神聖視するくせにニワトリは平気で焼き、カラスには汚いと言い、ひどい差別をしとるとは思わんか?」

「うーん。でもまあ、この界隈にニワトリもカラスもいないし…あんま関係なくない?」

「ちょっとまて。脳ミソ小さいって言ったのはお前か?出てこい。その妙な目ん玉ほじくってやるよ」

普段は温厚なハクチョウが珍しく喧嘩腰です。ヤギはせせら笑いながら答えます。

「おまえのくちばしじゃスコップにもならん。ワシなら話は別やけどな。」

ワシは沈黙し、じっとヤギを見つめます。

「…しょーもな。やめようやこんな話。この秋の時期しか俺らこうして美味い水飲めんのやし」

するとそのとき、イルカが大慌てで皆に呼びかけました。

「まずい!!いま、ニンゲンの子どもが上流の方角にいる!サカナからの情報だから間違いない。ニンゲンはいま、トカゲで遊んでる」

「こども?こどもって、ぼくとおんなじってこと?」

コグマが目を輝かせます。

「バカ。ニンゲンは子どものほうがタチが悪いんだよ。逃げるよ!」

オオグマはコグマを急かし、他の動物たちも大急ぎで逃げていきます。このとき、オウシが誤ってコグマの尻尾を踏んづけてしまい、ぷちんと切れてしまいました。

「痛!」

「すまん、坊主。でもいまはとにかく逃げるぞ!」

 

動物たちが大移動をおこなってから数時間後、命からがら脱走してきたトカゲが一息ついています。

「マジに死ぬかと思った。あそこで逃げてなかったら完全に終わってた……皆逃げたか。そりゃそうか。」

さて、どうするか…とトカゲが小石に座り、切れた尻尾の付け根をさすりながら考えていると、コグマの尻尾が転がっているのが目に入りました。

「ヘッヘッヘ。こいつをくっつけて……あほらし。こんなことやっとる場合じゃないっちゅうに……」

トカゲはコグマの尻尾を川に放り投げました。見下ろすと、それは深い紺色で、底にはきれいな小石がいくつも転がっていました。そのなかを、尻尾がゆっくりと沈んでいきます。ゆっくりと……

 

2

俺が依頼を受け、この地に赴いたのは1週間前。日が暮れると海中から発生する謎の光の原因を調査してほしいというものだった。

調査の対象となる水域一帯は、200年前までは陸地だった。人々は現在とは全くことなる生活を送っていたことは事実のようだが、海に沈んだ原因が宇宙人の来襲というのは信じ難い。200年前といってもぎりぎり2000年代だ。科学的なデータが残されているはずだ。ボスにこのことを報告すると、「うちはオカルト研究所じゃないんだ。さっさと潜って調べてこい」と小型の潜水艦を支給された。ボスはこれを「海底軍艦・弐式」と呼んでその性能にたいそう自信があるようだが、軍艦なんてとても呼べたシロモノではない。型落ちでつぎはぎだらけのオンボロである。これに乗るときはいつもヒヤヒヤする。

さらに、今回の調査は妻のカナ・娘のアヤコも一緒だ。「家族みんなで海底ツアー」なんてちっとも楽しくない。家族みんなで行くなら山だ。山しかない。そもそも危険なこの仕事に妻と娘を連れていく気など皆無だが、アヤコがどうしても行きたいと言うので断ることができなかった。その理由は、アヤコの日々の生活にある。

アヤコは生まれてから今日までの5年、全く髪の毛が生えてこない。もちろん病院に連れて行ったが、原因ははっきりしないままだ。医者から「ストレスでは?」と言われたときはショックだった。仕事柄ほとんど家に帰らないので、アヤコに寂しい思いをさせているのは本当だ。心のどこかで娘のわがままを聞きたい気持ちがあった。

 

潜水艦の動作確認をおこない、緊急時のための脱出ポッドも整えた。日没と同時に海に潜り、光の線をまっすぐ追いかける。機械の駆動音が響くたびにアヤコはカナの膝の上で大はしゃぎだ。

光の起点は意外にも早く見つかった。それはまるで古墳のような塊だった。半球の黒い塊が4つ隣り合わせで並び、1つは少し離れた場所にある。これらの塊の中心から強い光が放たれている。潜水艦に備え付けてあるカメラで撮影をしながら作業用アームで慎重に塊を崩す。見た目に反して、塊は簡単に崩れた。間近で見るために大きなカケラを1つ取り寄せると、驚いた。それは竹であった。いくつも重なった竹にゴミや泥、砂などが固まり、硬いドームを形成していたのだ。そして、肝心の光源はさらに驚くべきものであった。

 

それは観音像であった。苦しい、今すぐここから出してくれといわんばかりに輝いている。思わず操作する手を止めた。まさか観音様が海の底で竹のドームの中で光っているとはだれも考えないだろう。ふと我にかえり、急いで他の塊を崩し、中の観音像を全て回収した。いったいなぜ……?

アームを収納し、上昇をしようとしたそのとき、潜水艦の天井が大きくへこんだ。まさか。水圧に負けるようなものではない。では何だ。あらゆる原因を考える間もなく、その原因は姿を現した。巨大ウツボである。ここの番人だろうか。観音像を取り返そうとでもいうのか。ウツボは潜水艦に巻きつき、押しつぶさんとしている。俺はカナとアヤコをポッドに押し込み、体の小さなアヤコのポッドには5体の観音像も一緒に入れた。脱出スイッチを押し、ポッドが射出される。救難信号が発信され、ここから少し離れた海面に浮上するだろう。アヤコと観音像を乗せたポッドから漏れる光が次第に小さくなっていく。

艦内に警告音がこだまする。頼りない武器だが、これで勝つしかない。最低限搭載されている海中ミサイルや爆弾の射出スイッチに手をかけ、正面モニターを睨む。奴が大きな口を開けてまっすぐこちらに向かってくる……

 

3

「あーちゃんさ」「髪キレイだよね」

「笑笑」「なんもしてないけどね笑」

他愛無いラインのやりとりが毎日の楽しみ。とくに親友のヒナとはほぼ毎日、ずっとラインをしている。自慢ではないが、私はよく人から髪を褒められる。とくに気を配っているわけではないのだが、ヒナいわく、「すごくツヤツヤしてて、ぶっちゃけエロい」そうだ。毎晩部屋の窓から望遠鏡で夜空をのぞきながら返信を待つのが、私の夜のルーティーンだ。

去年高校に入学した私とヒナは一緒に天文部に入った。けど、アクティブなヒナは1か月もしないうちに退部し、いまはバスケ部にいる。なかなかレギュラーになれないらしい。私はというと、天文部に入部してすぐ、部長が「北極星(ベガ)が消えた!」と大騒ぎして「まさか」と思っていたら本当で、一時期世界中にそのニュースが流れたことがきっかけですっかり星を眺めることや宇宙のことを考えることが楽しくなっていた。髪を褒められるようになったのは、このニュースが落ち着き始めた頃のある日の夜、ある夢を見てからのことだ。

あれはたぶん秋のはじめだったと思う。しんと静まりかえった夜中、私はベッドの中で眠る私自身を見ていた。その状況に何も違和感も抱かずしばらく見ていると、横たわる私の上に、ぽうっと光が浮かんだ。やがて光は輪となり、その中心に観音像が現れた。

 

「お久しぶりですね。おぼえていますか」と観音像は尋ねる。

「どこかでお会いしましたっけ。覚えてないです」と平然と眠ったまま答える私。

「それもそうでしょうね。あのとき、あなたは泣き疲れて眠っていましたから」

「あのとき?」

「あなたが5歳のときのことです。あなたは私とともに小さく、狭い船に乗っていました」

「船?」

「わたしも、あなたも、そしてあなたのお母さまも、命の危機に瀕していました。それをあなたのお父様が身を挺して救ってくださったのです。本来なら恩人であるあなたのお父様もお守りするはずが、私どもの力が弱まっていたことで海の獣を抑えることができず、そのまま……」

「なにいってるの。お父さんもお母さんも元気で一緒に暮らしてます。なにかの間違いじゃ」

「そう。こちらの地球では、あなたはご両親とともに暮らしている」

「こちらの?」

「あなたとお母さまが船で海の中を進んでいるとき、わたしは考えました。絶対にこの2人は救わねばと。そこで思いついたのが、地球そのものから抜け出すことだったのです」

「???じゃあ、いま私が生きているこの星は」

「正確に言うと、当時の荒んだ地球から抜け出し、遠い未来の平和な地球に向かったのです。その途中、お父様のかねてからの願いを叶えるために、あなたに美しい髪を授けました」

 

もう、なにがなんだか分からなかった。タイムスリップしたということだろうか。

「そしていま、北極星のベガが輝きを失っています。時がきたのです。私たちは元の地球に戻らなければなりません」

「勝手なこと言わないで。私の今の暮らしはどうなるの。部活とか、ヒナとか、どうなっちゃうの」

「残念ですが、これは変えられないのです。私は主の元に帰り、ポラリスとして光を放つ役目があります」

何をいっても聞き入れてもらえない。そして観音を従える主とは、何者?

「もう幾日か経てば、星たちが孤を描きはじめ、北極星への道が開かれます。元の世界に戻るのは、そのときです」

そういうと、観音像は消えていった。次の日、私は高熱を出して一日学校を休んだ。観音像と言葉を交わしたことで肉体に変化が生じたのか、熱が引くと、私の髪は艶を増していたのである。

 悪夢の日から1年も経たないうちに、観音像が言った「そのとき」はやってきた。風呂上がりに夜風を浴びていると、近所の海面から一筋の光が北極星の方向に伸びるのを見た。それを軸にするように夜空の星がぐるぐると超高速で回転し始めたのである。

「ついにきた」

髪も乾かないうちに、サンダルを履いて自転車にまたがって漕ぎ出した。あの自分勝手な観音像をぶん殴ってやる。

「アヤコどこいくの!」

母の声も聞こえなかった。何重もの円が描かれた夜空は怪物の眼窩のように空虚であった。

 

最終部

「残念でしたね」

惑星間高速鉄道の先頭車両から地球を眺めるポラリスに、イルドゥンが声をかけた。

「やはり、未来に飛ぶのは間違いだったのでしょうか」

「正直、彼女の性格を見ると未来に飛ばずとも、あの地球で生き抜くことはできたと思います」

「私はそもそも彼女を信じていなかったのでしょうね」

「自分を責めないでください。ポラリスは何も悪くありません。しかたのないことだったのです。そもそも我々が主と離れてしまったのは事故なんですから。誰が悪いという話ではありません。言い方を変えれば、みんな悪いのです。」

「それでも私は彼女を連れて行きたかった。私の手で守りたいと思ってしまった。」

「だから、自分と同等のものにしようとした」

「そう。彼女の髪を私たちと同じものにしてしまった。あれは人間には刺激が強い。周囲の人間を惑わせ、彩り豊かな人生の代償として破滅を招くでしょう」

「自分を責めるくらいなら、その後ろめたさを忘れないでいてください。」

「いちど芽生えた罪の意識は消えない。生死の垣根をこえても消えることはない。12000年の時を経ても消えない。人も、人でないものも」

「その罪の意識を皆で分け合いましょう。」

 

 あなぐらで、クマの親子が眠っています。

「おかあちゃん、おきて」

「ん?なんだい、まだ寝る時間だよ」

「おしりみて、おしり」

「おしり?」

「しっぽはえてきた」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

101日からリバーウォークの紫川沿いでスタードームを立てています。夜になれば電気がつきます。ずっと直視するのが辛いと感じるほど強いライトですが、星の部分に布を張っているのでとてもキレイです。特に赤と青のドームは雰囲気あります。作業中、子どもやカップルがドームの中で遊んでくれました。普段はドームで遊ぶ人たちの反応があまり分からないので、今回は僕もけっこう楽しかったです。

作業中、「眩しい」と思ったとき、むかしばなしの「髪長姫」を思い出しました。また、スタードームということなのでどうしても「星」は外せないだろう、と。ジグザグに並んだドームを見て、これは「星座」だろう、と(安直だよなあ)。星座と髪長姫とドームを結びつけたらこうなりました。あと、ウツボの顔は怖い。何考えてるか分からない恐怖。最後に、2回目ワクチンの副反応しんどい。倦怠感。