参加費も、連絡先も、書いて無い。怪しいチラシ。
笑って居るけれど、何処か狂気じみて居る。
そもそも、ドームとは何なのだ。そのスター☆ドームとか言うもので、何をしようと言うのだ。
もし恐ろしい儀式めいたものが、ここで開かれようとして居るなら、何としてでも止めねばなるまい。ここは僕らの街だ。僕らが守らなければ。
チラシに書かれた日に夢広場に向かうと、まだ太陽の監視がある内から、怪しい集団が儀式の準備を始めて居た。
長く割かれた竹を繋いで組んで、巨大な半球が形作られて居る。これは牢屋であろうか。生贄を捉えて逃がさないようにするための。
大人にも子供にも見える怪しげな集団は、着々と儀式の準備を進めて居る。車を乗り上げ、沢山のコードが付いた機械を下ろす。ドームに幕をかけ、その内部を隠す。その不審な前座に、夢広場に居た小さな子供たちが気を取られ始めた。
太陽が沈んだころ、遂に奴らは動き出した。あろうことか、公園で炎を焚いたのだ。
僕らの公園が、紅く染まる。合わせて、僕らを誘うように音楽が鳴り始めた。何も知らない小さな子供たちはハーメルンよろしく吸い込まれていった。
白い幕の張られたドームには巨大な影が蠢き、血のように赤いハートの描かれたドームの隙間には、色鮮やかな大粒の雫が見え隠れして居る。
繭のようなドームもある。その中を覗くと、言いようのない不思議な香りが鼻腔に流れ込んで来た。一体何が孵ろうとして居るのだろうか。
子供たちは奇声を上げ、走り回り、最早夢広場は地獄の体裁を成して居た。いとも簡単に、僕らの日常は奪われたのである。
次第に、或る者は手首が発光し、また或る者は炎を前に踊り始める。とうとう完全に奴らの手中である。この儀式は子供たちを生贄に、奴らの仲間を増やすものだったのだ。
後悔先に立たず。眺めて怪しむだけでは、守ることなどできないのだ。行動しない者に、結果は伴わない。僕の無力さを嘲笑うように、遠くで月が浮かんで居た。
あの月は、見たことがある。あの、全ての始まりのチラシ。奴らは全て計算して居たのだ。
僕は逃げ出した。どうすればよいのかもう分からなかった。悔しさと怒りで胸が詰まる。涙で帰路が見えなくなったが、点々とした明かりが僕を導いてくれて居た。
それはこの街の命の灯火のように見えた。まだだ、まだ終わって居ない。僕らの街を取り戻すのだ。
僕はアスファルトを踏み締めて帰った。
翌日、僕はまた夢広場へ向かった。昨日は眠りに就けず、ずいぶん遅い時間になって起きたので、少し焦った。
夢広場に辿り着くと、そこにはいつもの光景が広がって居た。遊具と、自転車と、子供。ドームも、巨大な影も、機械も忽然と消えて居た。
誰も、あの夜のことを覚えて居ない。ただ、怪しいチラシだけが、家のテーブルの上、朝刊の下敷きになって残って居る。
だけど、僕は覚えて居る。あの夜、何があったか。あの集団はあの儀式は、きっと次の場所に行ったに違いない。そして、また子供たちを拐かしているのだ。
君の街が、その標的にされないことを願う。そして、もし狙われたのなら、君は行動を起こして君の街を守って欲しい。
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