2024年9月28日土曜日

能登へ

 深い山や海のそばに立っていた家々は、地震と津波で何度もゆすられて、なぎ倒されて、へしゃげて、もとの形を失っていた。住人のいなくなった村や町で、積まれた瓦礫がしずかに片付けられてゆく。何年もかけて作り上げ守られてきたはずのものが、最初から何もなかったかのように更地へと帰ってゆく。



隆起で白くなった岩に激しく波がぶつかる。

海は変わらずどぎつい光を繰り返す。

ざあ、ざあ、ざあ、ざあ―

人間がこんなに哀しいのに、あんなに海は青いのか。



帰り道、塩田に立つひとりの人夫を見た。燃えるような西日のなかで、ひたむきに四肢を動かして海水を撒いていた。
ああ、哀しくはなかったのか。
たくさんのものが壊れて失われても、人間は生きていて、美しかった。


小籠包

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