キミは、その身で伏線を回収したことが、あるか?!
フラグを回収する、と言っても良いかもしれない。「フィクションにおけるお決まり」のシーンなんかでもいい。チンプでチャチぃ例をあげるならば、サスペンスドラマにおいて、背後に違和感を感じ振り返るも何もなく、「なあんだ」という表情で前を向いた瞬間、そのドテッパラに深々とナイフが刺さっている。といったものだろう。「ああ~~~だめだって。もう死ぬの確定じゃん」とハッキリわかる、お決まり。分かりやす過ぎる伏線。それがもし自分の身に起こったら、キミはどうする??
「合馬の古民家を見に行こう」ということになり、どうやら自転車で行く人が大半のよう。そろそろ私の遊星号のタイヤも空気が抜けているだろうし、メンテナンスも全くしていない状態だったので、これはちょうどよい機会。修理して私も乗って行くことにした。遊星号はそのフォルムから、ときに「エヴァ初号機」と揶揄される!しかし、一か所だけ存在する赤色のパーツがとてもカワイイのだ。店頭で空気を入れてもらいながら、「しばらく乗ってないので……」といった話をすると、店長は「ヒビ割れが少し目立つから、あまり乱暴な乗り方はしないように」という。「あー、わかりました」と返事をして、学校へ向かった。
学校を出てからはしばらくモノレール沿いにまっすぐ南下し徳力を過ぎたあたりからさらにまっすぐ進む。その後、右に曲がれば合馬への入り口となり、車が減り、建物も減り、田んぼが徐々に増えていった。稲はまっすぐ、スキッとした表情で生えている。途中の畑にはナスだけが広く植えられている。遠くでは子どもたちがサッカーをしている。風が吹けば、稲が遠くから波打つ。これの背景に夕焼けを組み合わせれば、カラヤンのアダージョが似合いそうだ。雑念を取っ払い、気づけば心の底をノックする、車輪の間を抜ける風の音。
私は場所や建物に思い入れを持たない。持つことができない。持ちたくない。2年生のときの実習で、「友人の思い出の場所を辿る」ことをテーマにした同級生がいた。私は「とくに思い浮かばないなあ」と考えながらその同級生の発表を聞いていた。おそらく「建物(場所)に身体や記憶が結びつく」感覚がとても嫌いなのだと思う。これまで「ここはなんて最高な場所なんだ!」と感じる経験はなく、「ここから抜け出せない」「行きたい場所に行けない」と感じることの連続だった。地縛霊というべきか、場所の奴隷というべきか。建物や風景の写真を撮ることにあまり食指が動かないことも関係があるかもしれない。まァ、アイドルの写真集だけは買うけどね。さゆりんごの卒業記念写真集は買って本当によかった。なんのこっちゃ。
「この場所を手放したいけどできない」という気持ちは、私にとっては果てしなく苦しく、つらく、血反吐が出るものだ。「手放せないなら壊せばよい」と考えることもある。スクラップアンドビルドの精神も良いじゃないか。いつまでも古いモノに固執しているだけでは未来がないではないか。ただ……場所を壊して無理やりまっさらなものにする行為は重い代償を伴うだろう。それはお金や時間、心、記憶、感情、歴史、風土、(もっと言えば、霊的な何かの存在?てか、そこまで言ってたらキリがねえっつーの!アハアハ)……一歩間違い、大したことのない場所と思っていたら、無くなってはじめてとても価値あるものだったと気づく。失って初めて理解できる価値。失わなければ価値を理解できない自分。可能なら、失う前にその価値を見出したいのに。そして最後、価値を見出せずに失った自分を肯定して「それでもいいよね」と恥に蓋をする。罪に蓋をする。その先に、自分の中に何が残る。
「お前のアイデンティティはどこにある」と古民家の主から聞かれた。「うーん、まあ、、、18年過ごしてきた宮崎にあるでしょうね」と答える。そのあといろいろ話したが、主からは私が必死に相手に迎合しているように見えたらしい。合馬の人と少しでも共通するものがあれば話しやすくなるかな、といった具合で話をしていたつもりだったが、いつの間にか迎合していたらしい。迎合だってよ。迎合だってさ。迎合なんだって。迎合ってなんだ。言い過ぎやろ(必死な抵抗!(;´・ω・))。初対面の人間に「迎合してるね」なんて言うか???まーなかなか言われない、ありがたい言葉だと思って受けいれYO!
正直、生まれてから18年過ごした場所なんかにアイデンティティを見出したくはない。生まれる場所や親を選んだわけでもなく、生まれてから望んで18年も長居したわけではない、と言いたい。そんな気持ちを抱いていれば郷土愛など育まれるはずもない。地元志向などワケがわからない。家の事情や、のっぴきならない理由があって戻るのならしかたがない。けれどもそんな理由もなく、外に出ることが可能ならば、どんどん外に出て故郷と呼ばれる場所からは遠ざかるべきだろう……いろいろ考えてみると、結局18年過ごしてきた中で芽生えたやるせない気持ちが今の自分を動かしている。怒りに支配されそうなときもある。これが古民家の主が言う、私のアイデンティティなのか?
モヤモヤ考えながらしばらく合馬の人々と話をして過ごし、そろそろ帰ろうかという頃にはすでに日は落ち、暗闇が広がっていた。サヨナラを告げて遊星号に飛び乗り、涼風のなかをかき分けるように漕ぎ進む。歩道か車道かも分からないほどの暗闇のなか突然、ACAね(ずっと真夜中でいいのに。)×Rin音Prod by Yaffleの「Character」のイントロのような音が後方から聞こえてきた。ドコドコドコ!と背中を殴りつけるような音がすぐそこで聞こえるのである。
右ハンドルのブレーキを思わず握りしめる。遊星号は車体がとても軽いため、前輪に急ブレーキをかけると、後輪がブワッと浮かぶ。坂道で急ブレーキをかけようものならジャックナイフ(マウンテンバイクにおける運転テクニック)なんてレベルをはるかに超えた大前転を起こし、流血では済まない。サイレンが遠くから鳴り響くことになる。
嫌な予感。降りて後輪にそっとふれると、硬いはずのそれはペラペラの頼りないゴムに変わり果てていた。傷口は、穴が空いたというよりは裂けたといったほうがよさそうだ。昼間の店主の言葉が虚空に響く。更に思い起こされるセリフ。「このタイプはどこでも買えるものではないから、取り寄せに少し時間がかかります」「前輪4000円、後輪3000円くらいですかね」……少なくとも、3000円が飛ぶ未来は確定していたのだ。トホホのホである。