眠くって眠くってやってられねえ6限が終わった後、
モウロウとした意識のなか、腹もヘッていたから、よたよたと歩きながら帰る。
やけに中庭に人が多いなとおもったら、昼間っから飽きもせず皿回しだの玉転がしだのやってる連中がこの時間になっても曲芸を続けていた。いつ見てもおんなじことをやっている気がする。ヒマなのだろうか。ヒマなのだろうな。
あ、いやいや、もしかしたら、彼らは日々成長し続けているのかもしれない。実は髪が毎日数ミリずつ伸びているのと同じように、彼らは、少しずつ、ムダな体の動きを減らし、キレを磨き、放り投げる球がひとつ、またひとつと増えているのかもしれない。毎日見ているからそのことについて理解できるわけではないのだ・・・とか考える前に、ただただうるさいなあゴミ拾いでもやってろと思ってしまった。いかんいかん。
ジャグリングとかディアボロとかシャレオツな技もいーけど、どーせやるなら猿回しとか南京玉すだれとかもやってくんねえかな・・・ドヤ顔でボウリングのピンみたいな棒っきれを振り回すより、言うこときかない猿に人間が振り回されてる姿のほうが好きだ。
投げ銭のカゴひとつぐらい置いときゃいいのに。置いといても俺はビタ一文投げねえけど。それどころか、通行の邪魔といって柿谷曜一朗なみのボレーシュートをかましてしまうかもしれない。それどころか、足元にマヌケなツラをして転がっているそいつをむんずと踏みつけ、引きちぎり、粉々に粉砕し、燃やして米でも炊いてしまうかもしれない。そして、雀の涙ほどの銭を全てかっさらい、自販機へ直行するだろう。
大道芸の連中のことはものすごくどーでもいーのだ。今日気になったのは猫のことである。空腹やら眠気やらでパンクしそうになっていると、手前の砂利の駐車場に黒い軽自動車が突っ込んできた。バリ、バリと石を弾き飛ばしながら突っ込む車。非常にムカつく。今なら石を投げつけても気付かれないのでは・・・?ニヤリ。ちょうどいい石を探していると、駐車場の奥から黒い猫が走ってきた。同時に、反対方向から薄茶色い猫が迫ってきた。2匹は決して仲が悪いわけではなさそうだ。軽自動車のエンジンが止まる。2匹は鬼ごっこを始めた。黒が薄茶色を追いかける。薄茶色はデブでノロマでドンくさいらしく、すぐに追いつかれる。車の下で、ごろにゃんぐるると2匹がもみくちゃになり、混ざる。もはやプロレスである。軽自動車からプスプスと音が鳴る。車体の熱と2匹の体温で、とうとう2匹は溶けて液体となり、一つの水たまりができあがった。そこから俺はなんとかその液体を両手ですくい、飲み干す。味はカフェオレに近い。ちょいとばかりヒゲと尻尾の骨が溶けきっていないのが気にくわないが、多少は空腹を満たすことができたので、まあいいだろう。
顔を上げると、空に黄色とも白色ともつかぬ大きな穴がぽっかり開いていた。目を凝らすと、そこから新たな猫が走り出てくるのが見えた。今度は何味だろうか。3匹、4匹と、混ぜる数が変われば味も変わるかもしれない。これからの楽しみが増えた。
おわり
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