2022年4月23日土曜日

摘んだり掘ったりの週末

 

416日】

ここを花でいっぱいにしましょう。夜空が星でいっぱいみたいにね。花を摘んでおいで!

 


買ったばかりの礼服を来た小さな男の子が、前が見えないほど大きな花束を抱えている。花束を包む紙袋が手汗で少しふやける。慣れない革靴が足を痛める。アナウンスはまだ聞こえない。おとなたちの視線が気になる。だから花束はこのままでいい。

 

八重桜が連なる神奈川県・秦野。桜が満開になる前に、農家たちは花を収穫し、塩漬けにする。膨大な量の花が咲くため、収穫するだけで多大な労力を費やす。

 

アナウンスが響いた瞬間、男の子は歩き始めた。前はよく見えないが、周りのおとなたちの反応を見る限り、あらぬ方向には進んでいないようだ。キラキラしたドレスに身を包んだ女の人が待っている。隣にはキリリとした表情の男の人が胸を張って遠くを見つめている。僕がこの花束を手渡したとき、二人は最後のドレスアップを遂げる。

 

汚れやゴミを水に浮かべ、取り除く。

 

女の人は九州から秦野にやってきた。九州と秦野がどうやって繋がったのかは分からない。今まで酒屋に勤めていたけれど、この結婚を機に辞めるらしい。式場にはその酒屋の人たちもいて、お祝いしていた。

 

広げて、水気をとる

 

花束を渡すと、女の人から頭をなでてもらった。うれしかった。僕が席につくと、お祝いの後ろでひっそり佇んでいた緊張はほどけ、会場は完全なパーティーになった。しばらくすると、またアナウンスが響いた。言われた通りの方角に目をやると、ピアノの横にタキシードを着た若い人が立っていた。

 



会場が静まると、ピアニストに会わせて、タキシードを着たその人は外国語で歌い始めた。

 

417日】

むかしむかしのことでした。それは、お日さまがかんかん照りつける暑い日のことでした。

とある港町に大きな公園がありました。ひとりの旅の商人と、もうひとり旅の画家が別々の方向からやってきて、公園の真ん中の木の下で一息つきました。

「ほー、暑かった」

「おお、涼しい。えーっと火打石は……あ、だんな。だんなすんませんちょいと火を」

「ああ」

タバコがきっかけで商人と画家は仲良くなり、それぞれ身の上話をはじめました。

 

「……それでな、あっしは外国まで商いを広げようと思うたんじゃ」

「ほー」

「でっかい船を十艘つくった!」

「おお!」

「ところが嵐で全部沈んでしもうた。アッハッハッハ」

「…」

「そいでな、今度は金を掘ることにしましたのじゃ。」

「ほう」

「どでかい金山を見つけた!」

「おお!」

「ところが山崩れに遭うてこれもダメですじゃ。ハハハハハ」

「…」

「そいで、次は絹の商いを始めたのじゃ」

「ほ」

「馬百頭に積むくらいの絹を集めた」

「…!」

「ところが山賊に全部取られてしもうたガハハハハハハハハ」

「…z

「次は材木の商いを始めた。買えるだけの木を全部買い集めた。へへへへ」

「…zz

「山火事で全部燃えてしもたイヒヒヒヒヒヒヒ」

zzz

「…ガハハハハハ。むりないわ」

旅の画家はぽわぽわ眠ってしまいました。すると、不思議なことが起こりました。

 

眠っている画家の鼻の右の穴から一匹のハエが這い出てきて、どこかへ飛んでいったのです。商人は不思議なことがあるもんだと考え込んでいました。しばらくすると、先ほどのハエが戻ってきて、画家の鼻の左の穴に入っていきました。すると画家は目を覚まし、

 

「…小判だ」と一言。

続けて「はあ~ずいぶんと楽しい夢を見たもんじゃ」と大きな伸びをしながら言いました。

「どんな夢です?」

「うーん実はな…」

そういうと画家は今見たばかりの夢を絵に書いて、商人に話しはじめました。

「どこだか知らない山があって。その山に入ると農家が住んでおり…」

 

「その農家の山には大判小判が地面から生えており」


「それを掘ると、もっと掘れ、はよう掘れとハエが飛び回るので」


「掘り進めるのですが、次から次へと生えてくるのです」

「なんと不思議な話じゃ…」


「しかも、この大判小判は食えるのです」

「なんと!」


「ちょいと手を加えるだけで、たいそうな馳走となるのです」


「なにも全部ひとりで食べてしまわんでもよい。誰かにあげてもよろしい」


「おまけに、その山には清い水が流れているから、ワサビやらなにやら生えている」

「ほう。山菜とな」


「川を上れば、水晶だって採れる」

「なんと!」


「苔むした大小さまざまな石が川の潮流のひとすじひとすじを導いておる様子は、それはそれは美しゅうて」

 

「山にひとたび踏み入れば、異国のような木々が生い茂っている。大きな岩が、ちょうど真上からお天道様に照らされていた。思わず手を合わせてしもうた」

 

商人はキラリと目を輝かせました。

「よーし!その夢あっしが買った!ささ、売ってくれ」

「な、なんと夢を?」

「そうとも。夢を買うた」

「ハハハハ、冗談の上手い人だ」

「いやホントですじゃ」

そういうと商人は銭袋を画家の膝の上にズシリと置いた。

 

「いやしかし、これは本当かどうかわからんただのたわいのない夢かもしれんぞ?」

「ハッハッハ!それでも買うた。夢を見るとは楽しいことです。ハハハハハハ!」

 

「…そんなんだから、あんたは失敗するんだよ?」

「ハハハ!それでも結構じゃ。では、達者でな。さいなら」

 

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