2021年5月1日土曜日

パレードを終えて

 

少し早すぎた。車も人も見当たらない。上着のポケットに手を突っ込んで輪留めに座っていると、荷台に風船を乗せた軽トラがやってきた。すると、あちこちから次々に人がやってきて、一瞬で荷物を車に載せてあっという間にそれぞれの持ち場に散らばっていった。7時「集合」だったけど、この時間にはすでに道に旗が立てられはじめ、テントが組み立てられた。「椅子少なくない?」「ロープ誰が持ってる?」「この間隔で旗足りる??」と少し手間取りつつも、みなワクワクしながら準備していた。

 

スタート地点の準備をしている横で、ウォーキングや犬の散歩をする人、物珍しそうに見ながらウォーキングをする人や全く気にせず通り過ぎていく人がいる。この中でパレードのことを知っている人はどれほどか。おそらく全員知らない。木に旗をくくりつけている横を人がスタスタと通り過ぎるたびに、ロープを結ぶ手に力が入る。パレードに何人来てくれるか分からない。この人たちも一緒に歩いてくれたらより賑やかになるだろうに。見当がつかない不安が少しあった。

 

衣装を取りに道を戻ると、図書館の横でも準備が着々と進んでいた。西南の学生や北九州高校の先生、エイト会の人など全く繋がりのなかった場所から人が集まっている。知り合いを見つけ挨拶を交わすたびに「あのとき会話をしていてよかった」と、これまでのどうということはない雑談が生きた瞬間を感じた。

 

スタート地点に戻ってみると、もう受付がはじまっていて、順番待ちの人の列ができていた。さっきの心配は杞憂に過ぎなかった。検温と受付を終えた人が次々にスタートの交差点に移動するのを後ろから眺めていた。

 

関係者の挨拶が終わり、いよいよパレードがはじまる。とよみつ姫が小さい子どもと遊びながら歩いている横で、慣れないゴープロを構えながら歩く。途中、ジャンベの人たちに太鼓を渡されポコポコ叩き、しまいには青いドレスを着た人と踊っていた。自分は、外からこちらの表情は全く読めない仮面を被っていたのでなにも気にすることなく踊ることができた。

 

風に乗った太鼓や管楽器の音を感じながら、風船が飾られたゴールのアーチをくぐる。あっという間のパレードだったが、楽しかった。この楽しいパレードが来年、再来年と繰り返されれば、道そのものが楽しさを記憶してくれるんじゃないかなあと考えた。普段この道を通りがかるだけで、なんだか楽しい気分になれるような不思議な道になってくれないかなあ、と。人の記憶は薄れるし加工されるし、その人が死んでしまえば記憶そのものが消えてしまう。それゆえに、場所が記憶できるなら、全く変わらないまま、今日の出来事を覚えていてほしいなあ、と。いま、自分のなかで人間が大事なのか場所が大事なのか分からなくなっている……

 

陽が落ちた後、スーパーに買い物に行こうと家を出た。ATMで千円札を1枚引き出したところで、せっかくなら遠くのスーパーに行こうという気になった。スタート地点で駐車場を借りたスーパーに向かった。買い物を終えて、来た道を戻っていると、療育センターからモジュールタイプの車いすに座った子どもと話しながら帰る夫婦とすれ違った。覚えているかぎりでは、この親子はパレードにはいなかった。もしかしたら窓から手を振ってくれた人たちのなかにいたかもしれない。せっかく出会うのであれば、すれ違うのではなく、同じ方向を向いて歩きたかった。この望みは来年叶えられるだろうか。次のパレードも見届けたい。

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