「行きたい!9日行ける」と書き込んでくれた小籠包と、梨とブドウを刈りに岡さんの家に遊びに行った。
北方駅を降りて、3丁目の団地群を背にしながら、二つの大きな屋敷が並ぶ通りをまっすぐすすむと、北方交番の横道につながっている。この交番は通学路の分岐点のようだ。夕方になると、高校生が交番の前でいつも立ち話をしている。自転車に跨り、片方の足を地面に着けて、すこし体を傾けている彼らに向かって、若い警官が面倒そうに、早く帰るように呼びかける。生徒たちが名残惜しそうに散り散りになった後、体育館の窓から漏れる光だけが、きくっこ通りの交差点をいつも照らしている。
交番からきくっこ通りを一直線に進み、交差点を抜けてさらに進むと、左前方に池が見える。この池に沿って歩を進め、木の茂みが歩道の日除けとなってくれる場所まで行けば、若園小学校が目の前に現れる。しかし、今回はこの茂みまで行かずに、別の道から向かうことにした。道を変えて、行ってみたい場所があった。
「ああ、あるよ。バイオリンを作ってる工房。ときどきうちに買いに来てくれるよ」
以前、中村さんから聞いていたバイオリン工房に向かった。聞くところによると、工房の主の息子がバイオリニストのようだ。その父親である工房の主は、はじめは趣味で小さなバイオリンのオブジェを作っていたが、いつの間にか本当に音楽が奏でられるバイオリンを作るようになったらしい。道路に面した花壇の柵に、「バイオリン作ってます」という文言が書かれた小さな看板を掲げた一軒家。もし今もあるなら、梨狩りの後に行きたい。そう思いながら向かった先に、看板は見当たらなかった。
普段通ることのない蜷田若園の小道は、ちょっと楽しい。幻から覚めた後、シマヤさんのお店を左手に、急な坂道を下った。細く、うねった道を歩くと蜷田公園が見える。遊ぶ人の姿は見えない。振り返れば、湯川小学校が遠くに見える。屋上の、あの丸い鳥籠のようなものは何だろう?踏切が近づいてくる。タイミングよく電車がやってきた。年季の入った車体が熱風を巻き上げ、周りの音を奪い去り、聴覚を独り占めする。近くの家の、空の車庫には三輪車が並んでいる。玄関で動き回る子供たちに、親が日焼け止めを念入りに塗っていた。
踏切を越えたすぐそこに、岡さんは住んでいる。久しぶりに行った岡さんの家は、以前より格段に緑が増していた。道具を借り、収穫の手順を一通り習う。
「これ、手袋とハサミ。虫除け持ってくるねー」
これがいいかな?と思った葡萄の色が、海底から引っ張りあげたような深い青を極め、もはや暗黒と言えるものだったときは、とても嬉しかった。気分は宝石の採掘。場所があまりよくなかったのか、小籠包は苦戦していた。葡萄と比べると梨刈りは簡単だった。ちょっと小ぶりな梨の姿が、かわいそうで、かわいい。
作業のあと、岡さんの家で軽い昼食をとって休憩した。漬けたスモモのジュースを炭酸と焼酎で割ったものがおいしい。みずみずしく光る梨と、カチカチのアイス。甘みで満たされた頭の中を、強い炭酸で洗い流したときの爽快感は忘れられない。最高だ。