屋根裏で目を覚ます。時計は6時を指している。
屋根裏で目を覚ます。時計は8時を指している。
昨日、盆栽の鉢に打ちつけた右額をさすり、
重いリュックサックを引きずるようにして階段を降りる。
IHの駆動音。
冷蔵庫を開閉する音。
ハツメットは既に起きており、開店の準備をしていた。
瞼をこすりながら準備をするハツメット。
眠気をかき消すような音。
うどん職人ちくわがシャッターを開けてやってきた。
そしてこう言った。
「包丁研ごうよ」
ちくわの右手には、レンガ、いや砥石が握りしめられていた。
砥石と包丁を水で濡らし、そっと刃を砥石に当てる。
包丁と砥石の間に小指が入るほどの角度で包丁を傾ける。
なるだけ角度が変わらないように、研いでゆく。
シューッシューッという音。
「ッ」の間に一瞬、かすかな「ㇽ」が聞こえる。
横に少しずつずらしながら、研いでゆく。
まだ少し濡れている刃が白い光を放つ。
歩く人の足音
お湯が沸く音
椅子がかたかた動く音
ありふれた音の中
刃の上を舐める光と調和する、砥石と包丁の会話。
3人で研いだあと、試しにネギを切ってみた。
しかし、切ることはできなかった。
切るのではなく、落ちる。
すん、と刃が落ちるのである。
まな板の上に転がるネギが、
ただ魂の形だけをそこに残し、骸は塵となり、煙のように天にのぼり、
消え去ってしまったかのようである。
そして、困ったことに記憶の数々がこのカーソルが点滅する世界の中に
入りたくないようで、どんなに押し込んでも入らない。
ピクチャという部屋に引きこもっているのである。
なぜだろうか。もう腹も減ってきたのでこのへんで終わろう。
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