中谷内家に保管していたスタードームは、野研がつくった芸術祭のときのもの。フレームはほとんど傷んでいなかった。竹の太さもちょうどいい、とても上等なものだ。
しかし、作業を始める前から、激しい雨が降りつけていた。風も強い。いいといえるのは、比較的気温が低くないことだけ。だんだん強まる雨脚の下「きのしたさん、もう、今日はやめとうこうよー」と中谷内さんがいう。他のひとたちからも、「やめとこうかー」という意見が出る。だけど私は思った。フレームはそろっていて、立てるだけ。しかも1基だけ。これは、みんなが集中すれば雨の中でも無理なくいける作業量。雨は弱まる気配はないが、すでにフレームを並べる時点でびしょびしょに濡れているのだから、もう濡れたついでにあとすこしがんばるだけだ。ただし、みんなのやる気が一気になくなってしまうので、絶対にまちがえてはいけない。
「続行します」宣言をして、フレームを並べてつなげる。私は、まずはPとSが混ざらないように分ける作業をするが、フレームをつなげるのが初めての人もいて我流でつなげ始める。つなげ方も教える。フレームを組んで置く。棟梁の私が指示を出すけど、前につくったことがある経験のひとが思い出してきて、「こうじゃなかったっけ?」と置き始めると、「船頭はひとりにせんと、わからんがー!」とヤジがとぶ。悪天候じゃなければ、もっと作り方を説明しながらつくるのが一番いいけれども、どんどんずぶ濡れ度がひどくなってきてみなイライラしているので、先を急ぐ。
天頂の星が組み終わったところで、うすうすなさそうと思っていたけど、やっぱりベースがないことになったので、急遽ベースをつくる(去年はベースなしでも立てたという意見も出たが、つくることにする)。10等分にするときなどみんな協力してくれて、すぐにできる。そうやってつくるのかと感心する人もいた。
ベースを置いて、フレームの立ち上げ。この平面から立体への瞬間。立体になったとたんに、現場のダウンな雰囲気が一気に吹き飛ぶのがわかる。なんかもう立ったと思ってもらえるのである。逆に言えば、それまでは「簡単っていうけど、本当にできるのかな」と疑問の空気が立ち込めるので、棟梁は「立ちますけん!」という態度を多少強気で出さなければならない。これは、よそに出掛けていってやるこれまでのワークショップや設営でもだいたいそうである。立体になるまで持ちこたえられたら、みんなのテンションがあがる。
横のフレームを入れる。3本ぐらい入れたところで、ちがうところに入れ始めるひとも。こ、これは棟梁試験のトラップのようだ!惑わされてはいけない。雨さえ降っていなければ、みんなで繰り返し練習したらいいんだけど。
最後に強風で飛ばないようにペグを打って完成。
中谷内さんは新しい天幕を作成している。晴れた日にかけてお披露目するのをたのしみにしている。いつもは半日かけてドームを立てているので、今日は最終的に立ってよかったといってもらう。
お昼ごはんは、用意していただいた北山特製きのこそばをみんなで食べた。冷えたからだに染み入るうまさ。「明日は珠洲病院でみんな会うんじゃないか!」というブラックジョークからはじまり、最近はめっきり聞かなくなったという北山の昔の方言についての話題で盛り上がった。あと、この日取材にきていた北國新聞の尾藤さんが、実は趣味でバイオリンを弾くことがわかり、来週以降ホタルの期間中に、ドームで演奏してもらうことになった。しかも尾藤さんはつい最近、珠洲在住の4人で弦楽四重楽団を結成したということで、楽団の上達具合によっては、弦楽四重奏の音色が北山の山々に響くかもしれない。
今回はひさびさの頼まれ棟梁で忘れてないか緊張したけど、スタードームづくりは身に染み込んでいることがわかった。あと、できあがるとみんながたいそう喜んでくれるので、やっぱりうれしい。
「野研のみんなも最初はドーム練習するがか」ときかれたので、「4月に新しい人がはいったら、みんなで1~2週間中庭で練習して、棟梁になるんですよ」というと、「そんなに短い期間で!?」というので、みなさんも3日間ぐらいみっちり猛特訓したらつくれますよ、と話すと、へえーそういうもんかなーと半信半疑で返事をされた。
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