2019年9月30日月曜日

秋海の誤算

紺碧の海は昨日、鏡のように澄み渡り、雲間からさす光の束が、きらきらと海の底を照らしておりました。

予定通り大学を7時に出て、10時前には浜に着きました。穏やかな南風。天気も波も順調。貴重な秋海をおもいきり堪能できる、そんな日になるはずでした。

ああ、しかし、なんとしたことでしょう。


装備をととのえいざ海へと歩き出したダイスケはそのときになって初めてあることに気づいたのでした。何かがたりません。あろうことか、足ヒレを忘れてしまったのです。

海は目の前なのに。どうすればよいのでしょう。ダイスケはあまりのことに、しばらく呆然としゃがみこむのでした。こんなことは初めてです。そうして海をみながら考えました。

そういえば昔、初めて潜りを教えてもらったころ、
ダイスケがついて回った沖縄のオジイたちやソロモンの島人たちは、みなカエル泳ぎをしておりました。カエル泳ぎで海深く潜っておりました。そうだ、カエル泳ぎこそ、ダイスケのダイビングの原点であったのです。

ダイスケはヤスを持ちなおすと、透明な海に身を沈め、静かにカエル泳ぎをはじめました。



本当にとても良い海なのですがダイスケのせいで遠くへは行けません。それでも一番弟子のアルパカ君は、まるでダイスケの失態をおぎなうかのように、近場の浅瀬で一生懸命にヤスを突き、魚の数を増やしていきます。潮の流れに乗って大型のウマヅラカワハギの群がやってきました。


二番弟子のイボリットは、ダイビング釣りでカサゴを釣ります。





カエル泳ぎのダイスケは、水面に浮いてきたボラとイカを突くので精一杯でした。それでも足手まといにならないように泳いでおりました。



アルパカ君が突いた魚をおかずに、火をおこしお昼ご飯を食べました。こんな穏やかな日は、魚が多い遠くの岩場まで泳げるはずなのに、申し訳ない気持ちでいっぱいです。



ダイスケは意を決して、イボリットにひとつの提案をしました。もっと魚がいる深い海まで、私がイボリットを引っ張って連れていくので、そのイボリットのフィンを貸してほしい。魚を獲るためにが海に潜るときだけ、つかまっているヤスから手を離し、しばらくその場で浮いていてくれはしまいか。


魚とパインを食べておなかいっぱいになったイボリットは、快く承諾してくれました。

ありがとうイボリット様。必ずや貸してくれたフィンよりも大きな魚をとらえ、謹呈いたしまする。




それはクチグロと申しましょうか?あるいは老成し完全に縞模様が消えているので、時にギンワサとも呼ばれる幻の魚です。はたしてダイスケはイボリット様との約束をまもり、見事なオスのイシダイをついたのであります。


その日のうちに、その見事なイシダイは、たくさんのカワハギとともに料理大将のところに持ち込まれ、


その翌日にはイボリット様のおとりはからいで14名もの者たちが集まり、みなでたのしくお刺身や煮物ををいただきましたとさ。


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