40年近く狩猟をして、このあたりの山はすべて歩き尽くしたという田中さん。軽トラで荒れて岩がゴロゴロしている山道をグイグイ登っていく。車で行けなくなると藪を歩き出す。
半日でまわった山は10ヶ所以上。小さな脇道や、川の位置。どの山に何があるか実によく覚えている。
それだけではない、木の名前、草の名前をすらすらと説明してくれる。藪を歩いていると急に立ち止まる。動物が逃げた音がする。獣道をめざとくみつけ、足跡から歩いたイノシシ大きさ、雌雄を言い当てる。古い踏み跡も何日前に通ったのか、山の斜面のどのあたりで休みをとるのか推理する。
猟の時には、犬とともに、いくつもの尾根と谷を越えて獲物を追うという。以前に獲物を獲った場所は細かく覚えいている。正確に地形がわかっていないと帰って来れない。そんな話が、いちいち面白い。ハチの話。ヤマイモの話。薬草の話。キノコの話。実地で身に付けた知識を、現場で学ぶ。実にエキサイティングな体験だ。ナチュラリストって、こういう人のことをいうのだとつくづく思った。
山の中にひっそり隠された洋蜂の巣箱群。棚田の上のそばの花。町からわずか離れただけなのに、とっておきの風景を、田中さんは見せてくれた。わたしだってこのあたりの山には何度も来たことがあったが、こんなところがあるとはまったく気づかなかった。
九州では、林業や狩猟など山仕事をする人たちを山師と呼ぶ。あらためて、山師というのはこういう人をさすのだと再確認だ。すたすたと歩く田中さんの後ろを追いながら、その健脚ぶりに圧倒された半日だった。
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