2020年7月5日日曜日

門司港アートの下見に行ってきました!!



『金鵄上がって十五銭』



何者かで在ったこともなく、誰にも知られずに埋もれてしまった、私は。

私の記憶の始まりはあの船の中。自分が何者なのか知ることもなく、教える者もいなかった。似たような体つきと、似たような顔をした者たちが狭い部屋に押し込められ、灯りさえ与えられず、どこかへ運ばれているということだけが理解できた。



私の頭上を白い閃光が走った。船の扉が開き、私は目線のみを上に運んだ。

茶色く焼け焦げた空、そびえる黒い影。身を切る寒さ、飢え。そこに在るのはただそれだけであった。



上の人間たちは私たちの中から一人ずつ選び、連れ出していった。選ばれた者は体を押さえつけられ、つま先からじわじわと炎で焼かれていく。肌が溶け、肉が固まり、血が蒸発していく。仲間たちはひとり、またひとりと焼かれ、健気にもうめき声ひとつ上げず、じっと耐え続ける。私は船の向こうで天高くのぼる、日に透かされて妙に色気すら感じる陰鬱な煙を見ることで仲間の死を感じるようになった。



上の人間たちは気まぐれな性格だった。あるときは愉快に、あるときは悲しみに暮れながら私たちを焼くのだ。私たちを焼くという行為そのものを、高尚な儀式のように捉えているようだった。私たちの肉体を貫く炎の柔らかい揺らめきや、苦悶に歪む心を覆い隠すように勢いを増す煌めきに、上の人間たちの悲喜交交の移ろいが鏡のようにうつっていた。



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ある日、むくろが降ってきた。私の住処はいつの間にか焼け死んだ者たちの墓穴にされたのだった。私は埋もれていった。穴の底でむくろに押し潰されて。誰にも知られることなく。しかし、私は出会ったのだ。一匹のミミズクに。



彼は言った。おまえは既に上の人間たちによって焼かれたのだと。そして私を焼いた上の人間たちは姿を消したのだと。

 

穴から這い出た私は、初めて外の世界をつぶさに見て回った。そして私がそこに垣間見たものは…世界は崩れていた。そんな崩れた世界の残骸で私の居場所は埋もれていた。



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 崩れゆく世界の端で、黒く濁った血を吐きながら。

何者にもなれなかった私は何者にも知られずに、かつての仲間のようにむくろとなり果てるのである。ひしゃげた私の体が朽ちる様を見届けるように、ミミズクが立っているだけである。










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