先週の土曜日、まちにまったマテ貝とり。
小学生から大学入って半分すぎるまで、私はシジミを除いて「貝が嫌い/食べられない」ということにしていた。だが、大學堂でいつだったかきのこが3月の節句の時期に作ったはまぐりのお吸い物、それに去年か2年前かの「究極の佃煮」によって、私はあっさりと「貝が嫌い」ということをやめた。
究極の佃煮は、美味しすぎた。今年はあれを自分で作りたい。
ベストタイムに間に合うように早く行きたいと浮き足立つも、当日私は大學堂だった。
2階では今村監督を招いたたんたんマルシェが行われていた。前日の映画上映の効果もあり、20人近い参加者が和気あいあいと楽しんでいる様子であった。
たんまる後に監督とお茶でもしながらゆっくり話せるかと思っていたが、実際はそんな時間がなく残念。
たんたんマルシェを終えた後、何度も時計を見ながら「早く、早く」とロケーションへ向かう。企業の工場や海運・輸送系の白くて大きな建物が並ぶあの辺り、普段はおそらくがらんとした道路があるだけなのだろう。しかし、この時期は一変、干潟に近づくにつれ、まるで真夏の海水浴場のように路肩、中央分離帯に該当する場所にこれでもかと車が並んでいる。これ全部が潮干狩りの人かと思うと、出遅れたとわかっていてもさらに焦りが募る。
縦列駐車にほんの一瞬ためらいをみせるきぞくだったが、大きくあいたスキマにデミオを滑り込ませる。すぐに取り出せる場所に水とタオルを準備し、いざ降りようとすると子連れの親子が「あー、満足、満足」といった様子で戻ってくる。ちらりと見られる視線がいたい。そうです、私たち今からですけどそれでも貝が欲しいんです。だれよりも大きなヴァケーションバックとギョサンとサングラスですけど、最後の最後までやりきりたいんです。
毎回来てみて思うが、干潟って広い。いぼりやモコの場所を聞くのもばからしく感じる。
とにかく掘るぞ!と、中間辺り、潮がひいてすぐ辺りを狙って穴に塩を入れていく。
ポコポコ水が湧いてくるものの、全然とれない。「きぞく〜、とれないよ〜」
ときぞくに泣きついてみるも、きぞくは割と冷たい。獲れたとも撮れないとも言わず黙々とあちこち掘り返している。チラとヴァケーション用のかごバックを覗くと、なんと!それなりに獲ってるじゃん!!
なんでこんなにとれないんだ、前はこんなにボウズじゃなかった、と絶望的になる。理由が全然わからないまま掘り続けていると、毎年絶対目にする「明らかプロフェッショナルのおじさん」にとうとう声をかけられる。
「あー、あんたなんかクワみたいなもん持っとらんの、あーそのちりとり(きぞくの)でもいいや」
盲点!ではなく、単なる準備不足!塩と同じくらい大切なものを、忘れていた!
干潟から上がった時に使う真水は用意していたのに、まさかの「砂を平に削ることができるなにか」を持って来ていなかった。戦わずして負けた。もう何もできない。
おじさんにやって見せてもらって、ようやく正しいやり方思い出した。
その後はきぞくの掘りを横目でみながら、あいている時だけ一瞬ちりとりを借り、その一瞬でひたすら砂を削りまくり作業をする、というやり方が続いた。
確かに、確実に獲れるようになった。
しかし、どうみても小さすぎる。子どもサイズとかではなく、もはや赤ちゃんサイズばかりとれる。たまに中ぐらいのが飛び出すと、思わず声をあげてしまうくらい嬉しい。
おそらく、このあたりは既に人が獲り尽くしており、そういう人が見捨てて、いや情けで残して行った赤ちゃんしかいなかったのだろう。そんなところで、無慈悲に赤ちゃんばっかりを採集するわたし。
6時頃だっただろうか。
もこから連絡が入り、合流することに。運良く視界に入り認識可能な範囲に彼らはいた。
「こっちヤバいよ、超ホットスポットがある!」
「え、なにそれ!?超ホットスポット?どこどこそれ!」
すぐ近くで「え〜、これ何とかじゃなーい?」とかいいながら掘ってるヒョウ柄ジャージのお姉さんと銀縁メガネのおじさんカップルを全く気にせず、その人たちも絶対気になるようなことを大声で口走ってしまう。しまった、こんなこと絶対大声でいうべきじゃなかった。
そそくさとその場を立ち去り、みんなと合流。とにもかくにも漁量チェック。
すると、その差は歴然。
ピンク、白バケツがいぼもこ、カノハン4人の獲れ高。
水色が、私一人の獲れ高。
まず、貝の大きさが全然違う。大人と赤ちゃん、とかいうレベルではない。
明らかに赤ちゃんと筋骨隆々の男の人との戦いだ。しかも、量も多い。大すぎ。
私のバケツを見て、いぼりやモコ、そして特にハンゾーは大爆笑。
この中の誰よりもバケツが大きかったのも効いたようだ。ああ、切ない。
これは皆に貝をミンタ(懇願)しなければ、と思った。
来月のリベンジを誓い、大学へ戻り調理をする。
春菊と紫蘇がさっぱりとした風味のマテ貝パスタはとてもおいしくもりもり食べた。
残りを皆となぜかゼミ室にいたビンビンと山分けして持ち帰る。
ここからが本当のわくわくタイムだ。
野研報告アーカイブから、ヒミツのレシピを探し出す。
白ワインはなかったので、酒で代用。最後まで煮詰めてできたのは、照り輝く「究極の佃煮」殻をはずすと、本当にわずかな量しかとれなかったが、まずは一口。
それがまた、おいしすぎた。
今も、思わず唾液をごくり、と飲み込んでしまった。
柔らかな食感に、じわじわしみ出すうまみ、うまみ、うまみ。
噛めば噛むほど出てくる、旨味。
もう旨味を感じることしかできず、一人キッチンで恍惚とした。ああ、おいしい。
これは食べだすと止まらない、と思い、その日は1本だけ食して翌日にとっておいた。
本当なら、少しずつ、もしくは行けなかった人たちとシェアして食べるのも良いと思っていた。しかし、翌日、一度口にしたらもう箸が止まらなかった。あっという間に全部たべきってしまった。もったいなかったので、赤ちゃんも含めて全部1本ずつ食べたのに。
ということなので、究極の旨味を味わいたい人は、来月絶対に行くべきだと思うよ。
潮干狩り。あともう1回くらいしかできないというのが本当にかなしいが。(てらす)