2019年8月14日水曜日

海を臨んで

私にとって今年初海、そして何年か振りの入水。小学生振りくらいだと思う。
実は野研に入っておきながら、長らく「海はベタベタするから嫌」とかそんな類の女をやっていた。今日は到着して早々に濡らすつもりのなかった服を盛大に濡らした。
今日の海はお魚突き用の海ではないのでみんな戯れるだけ。なんだってやれば楽しいものだ。綺麗な海で魚を突く、絶対にもっと楽しい。

日が沈もうとする頃今日の本題、うずめ劇場の「フェードル」が始まる。300年程前にフランス人の戯曲家に書かれた戯曲。王妃のフェードルが義理の息子イポリットに恋に落ち、そこから始まるギリシャ悲劇だ。

本当の海を背景に劇は上演される。観劇は時々するがこんな経験は初めてだ。あの場にいた誰もが初めてだっただろうと思う。この作品は海がキーアイテム。フェードルの愛するイポリットも、フェードルを慕うエノーヌも海に飲まれて死んでいった。フェードも毒に蝕まれながら海で死を迎える。波の音、潮の香り、ずっと続く地平線。全てが舞台の情景を思い起こさせた。海でこの作品を行うというのは本当に理想的で、海でしか感じられないリアリティー、激情があった。


私が感情移入をしたのはフェードルとエノーヌ。自分が女性だからか、共感や同情の場面が度々あった。フェードルが相手に思いを告げたあと、自分の気持ちを相手に示すことを明け透けに行うようになった箇所は激しく同意するし、エノーヌが全てを捧げているフェードルに捨てられる場面は本当に苦しかった。確かに、「ちょ、エノーヌ唆かすなって!!」となった場面は多々あった。だけど、それも全てはフェードルの幸せを願って、フェードルにとって何が1番かを自分なりに考えて行ったことだ。フェードルとエノーヌが気心のしれた風に話しているのはとても好きだったのに。フェードルが白状した後の王の反応にも少し落ち込んだ。反応も薄く、フェードルのことを愛情の対象からすぐに除いた。「愛していたのに」ぐらい言ってくれ。最後フェードルが毒によりフラフラしながら、そこにいる人たちに一瞬縋った様子はとても印象的だ。王は一瞥もしなかったように思う。あの作品の中で気にくわない人物No. 1は王かもしれない。
時代背景とか、問題とか色々あるかもしれないが、フェードルが海の中でイポリットとエノーヌと再会はしなくとも海として一体になれたらいいな、と大阪行きのフェリーの展望デッキの上で強い風と波に揺られ、カップラーメンを啜りながら海を臨んで考えている。
いま男性のパンツが私の横を飛んで行った。本当に風が強い。






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